ShinMaywa INSIGHT

【連載】「US-2」ができるまで ~ 番外編(1)

-プロのライターが密着取材!

実験飛行艇「UF-XS」
「US-2」の“はじまり”といえる機体を見てみませんか


波の高い海面に離着水できる世界唯一の現用飛行艇「US-2」。今回はこの高性能のルーツとなった実験飛行艇「UF-XS」をご紹介しましょう。

新明和工業の前身である川西航空機は、当時設計を主担当としていた菊原静男氏により、戦前から戦中にかけて多くの飛行艇を製造していました。戦後、その集大成といえる「二式飛行艇」を調査したアメリカ海軍は、その高性能に驚きます。一方、新明和工業は、菊原氏を筆頭に、新時代の“荒波を越える飛行艇”の実現に向けて、要素技術を次々に確立します。この成果に注目したアメリカ海軍首脳は菊原氏を招いて会談。これが発端となり UF-1アルバトロス機の日本への供与が実現します。このアルバトロス機を甲南工場で大改造したものが実験飛行艇「UF-XS」です。

1960年12月、甲南工場に搬入されたUF-1アルバトロス機です。提供:せきれい社『航空情報』
(1)1960年12月、甲南工場に搬入されたUF-1アルバトロス機です。提供:せきれい社『航空情報』

荒波で離着水をするには、水しぶきが高く上がってもエンジンやプロペラが破損しないことが求められます。そこで離着水速度を下げる「BLC装置」と、飛沫を低く抑える「溝形波消装置」を搭載しました。改造後は全長、全幅、全高ともにUF-1アルバトロス機より大きくなり、エンジンも2基から4基に、垂直尾翼・水平尾翼も全く新しいものになりました。一見しても原型機が何かわからないほどの“魔改造”ぶりです。

こうして完成した「UF-XS」は、1962年12月に初飛行に成功し、続く試験飛行でも想定通りの性能を発揮。ここに飛行艇の新時代がスタートしました。当機で確立した「BLC機構」「溝形波消装置」などの技術は「US-2」にまで受け継がれています。

現在、岐阜かがみがはら航空宇宙博物館に収蔵・展示されている「UF-XS」です。UF-1アルバトロス機の面影はほとんどありません。
(2)現在、岐阜かかみがはら航空宇宙博物館に収蔵・展示されている「UF-XS」です。UF-1アルバトロス機の面影はほとんどありません。
「溝形波消装置」の最適な形状を探るため、右舷(写真の向かって左側)の溝の幅は左舷より約1㎝細くつくられました。(3)「溝形波消装置」の最適な形状を探るため、右舷(写真の向かって左側)の溝の幅は左舷より約1㎝細くつくられました。

「BLC装置」は、専用エンジンで発生させた高圧空気をフラップ上部など各動翼から噴き出す仕組み。機内に送風用ダクトが設置されました。(4)「BLC装置」は、専用エンジンで発生させた高圧空気をフラップ上部など各動翼から噴き出す仕組み。機内に送風用ダクトが設置されました。
床面より上の薄緑色の部分がUF-1アルバトロス機オリジナルの機内で、床下の黄色の部分が新明和工業製の艇底です。(5)床面より上の薄緑色の部分がUF-1アルバトロス機オリジナルの機内で、床下の黄色の部分が新明和工業製の艇底です。
「銘板」はいわば飛行機の名札。「UF-XS」にはグラマン社(右)と新明和工業(左)の2つの開発当時の銘板が付いています。(6)「銘板」はいわば飛行機の名札。「UF-XS」にはグラマン社(右)と新明和工業(左)の2つの開発当時の銘板が付いています。
「BLC装置」「溝形波消装置」により、翼やエンジンに水しぶきがかかっていないのがわかります。提供:せきれい社『航空情報』(7)「BLC装置」「溝形波消装置」により、翼やエンジンに水しぶきがかかっていないのがわかります。提供:せきれい社『航空情報』
岐阜かがみがはら航空宇宙博物館の屋外には「US-1A」も展示。「UF-XS」と見比べてみてください。※本掲載時点では機体の再塗装作業を行っています。2023年1月に美しい姿をご覧いただける予定です。(8)岐阜かかみがはら航空宇宙博物館の屋外には「US-1A」も展示。「UF-XS」と見比べてみてください。
※本掲載時点では機体の再塗装作業を行っています。

なお、「UF-XS」は現在、岐阜かかみがはら航空宇宙博物館で実験当時の状態に復元され、展示されています。60年前の新明和の技術者たちの挑戦の痕跡を、実機と映像や写真で知ることができます。


ライター 板倉秀典

 

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