財務担当役員メッセージ

主要な経営指標を注視し、財務面でも評価していただける経営を実践してまいります

取締役
常務執行役員
財務部長

久米 俊樹

主要セグメントが調達難、原材料価格の高騰で営業損益は減少したものの、受注高は過去最高を更新し、最終損益は増益を達成

2023年3月期は、中期経営計画[SG-2023](以下、[SG-2023])の中間年でした。計画初年度である2022年3月期はコロナ禍に見舞われ、続く前年度は、2022年2月に勃発したロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響がさまざまな形で事業活動に波及し、主要事業の収益悪化を招く事態となりました。
具体的には、近年、50億円超の営業利益を計上していた特装車セグメントが、二つの収益圧迫要因が重なり、大幅な減益となりました。要因の一つは、製造に必要不可欠なシャシ(車台)が、半導体不足などにより必要数が確保できなかったためです。同セグメントの受注高は好調に推移したものの、これに見合った供給を受けることがかなわず、前年度より減収となりました。もう一つの要因は、原材料価格の高騰です。特装車は、多くの鋼材を使用します。鋼材価格は近年上昇傾向にありますが、前年度はエネルギー費用の上昇等も手伝って大幅な値上げが実施され、高止まりの状態にあったことも収益悪化要因となりました。
また、特装車セグメントに次ぐ売上高を計上していたパーキングシステムセグメントも、収益源であるメンテナンスや改修工事で用いる電気・電子部品が不足し、計画を先送りせざるを得ない案件が多数ありました。本事業も鉄材を多く使用するため、鋼材価格の上昇が追い打ちをかける結果となりました。
一方、産機・環境システムセグメント、流体セグメントは好調な受注に加え、M&A効果に伴う海外売上高の増加、さらには航空機セグメントも原価低減・円安効果により3年ぶりに黒字化を達成しました。

以上の結果、受注高は過去最高を更新し、営業利益は前年を下回ったものの、特別損益の改善・税金費用の減少等により最終損益は前年度を上回ることができました。
昨年度発行した本誌でも申し上げましたが、今回も、社会インフラを中心とした複数のセグメントを有する強みを実感した次第です。また、注力している海外事業についてもM&A効果等により、[SG-2023]の目標値(2024年3月期の海外売上高=450億円)を1年前倒しで達成(2023年3月期実績 463億円)することができました。

一方財務面では、有利子負債は横ばいながら、自己資本がわずかに増え、反対に営業利益が減少したことから、ROE(自己資本利益率)とROIC(投下資本利益率)は、いずれも前年度比で悪化しました。[SG-2023]最終年度となる今年度は、当初の目標水準には届かないものの、可能な限り肉薄すべく、増益と適正な資本構成(有利子負債+自己資本)を見極めながら資本効率の向上に努めています。他方、長期目線でみた場合、主要事業所の効率改善・老朽化対策投資の必要性が高まっていることから、目標指標が一時期悪化しても、投資価値や回収期間を吟味しつつ、株主・投資家の皆様のご理解を得ながら計画的な設備投資にも取り組んでまいります。

2023年3月期 決算サマリー(連結)
(単位:百万円)
  2023年3月期[A] 2023年3月期[B] 差異[A]-[B]
受注高 267,159 263,163 3,995
売上高 225,175 216,823 8,351
営業利益 9,293 10,569 -1,276
経常利益 9,902 11,821 -1,919
親会社株主に帰属する当期純利益 7,313 6,907 406
海外売上高 46,382 31,022 15,359
受注残高 255,859 210,338 45,521
ROE 7.6(%) 7.7% -0.1(pt)
ROIC 4.4(%) 5.1% -0.7(pt)
セグメント 売上高 営業利益
2023年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2022年3月期
特装車 91,311 97,190 707 5,354
パーキングシステム 38,627 38,099 2,686 3,066
産機・環境システム 33,425 25,560 2,923 1,724
流体 24,485 20,787 3,916 3,151
航空機 23,136 19,137 1,397 -875
その他 14,188 16,047 739 955
調整額 -3,078 -2,808
合計 225,175 216,823 9,293 10,569

機関投資家の皆様が関心をお持ちのテーマについて
ー 面談時に頂戴するご意見を大切に  ー

2022年度は、機関投資家の皆様と、のべ80件面談させていただきました。皆様から直接ご意見を伺いたいとの意向で、社長の五十川が同席する場も増えています。
個別面談が大半を占めていますが、前年度は、一つの事業について複数の投資家の皆様にご説明する機会も幾度かありました。

主なご質問事項として、

  • 特装車セグメントのトレンド(2024年3月期以降の見通し)
  • 航空機セグメントのトレンド(民間機部品製造の復調状況・防衛関連事業の見通し)
  • 産機・環境システムセグメントの伸長をけん引する、M&A企業KOREA VACUUM LIMITED(以下、韓国真空)の売上規模、収益性、強み、市場見通しなど
  • 流体セグメントの傘下となったTurboMAX Co., Ltd.(以下、TurboMAX社)の売上規模、強み、収益性など
  • 事業ポートフォリオの将来像
  • 株主還元に対する考え方
  • CSR情報のホームページや統合報告書等への開示に関する検討・協議

などがあげられます。

2030年度をゴール年とする長期経営計画[SG-Vision2030](以下、[SG-Vision 2030])をお示ししているものの、3つの中期経営計画を経て到達するには先が長いことから、皆様のご関心は、今のところ第1フェーズの目標に到達できるかどうかにあると感じています。
ここで、2024年3月期の見通しについて触れますと、市場こそ異なるものの、特装車、パーキングシステムの両セグメントは、調達難で苦しんだ最悪期からは脱し、航空機セグメントも民間機の生産機数は戻りつつあります。一方、産機・環境システムセグメントは、2018年にグループとなった韓国真空を中心に伸長する見込みであり、また、今般独立した流体セグメントは、従来からの安定性に2021年度にグループとなったTurboMAX社が加わり磐石さが増すなど、全般的にプラスに転じる見込みです。こうした傾向は、受注高や受注残高でも把握しており、調達難や材料費・エネルギー費用高の状況は続くものの、必要経費についてはお客様のご理解を得て価格改定をさせていただくなどの施策を織り交ぜつつ、各利益の絶対額と収益性の回復に努めているところです。
当社グループの5つの事業は、その多くに専業会社が存在し、投資家の皆様から「経営資源の投下対象を絞るべきでは」とのご意見・アドバイスも頂戴しています。これについて当社の見解をお示しするべく、昨年から、長期目線に立った事業ポートフォリオのあるべき姿の検討を始めています。中期経営計画 第2フェーズのテーマである【拡大】を実感していただくには、経営資源の投下対象を厳選する一方で、将来性のある新規事業の育成に相応の投資を行う姿をお示ししたいとの考えもあります。
なお、株主還元については、大きく分けて二つのご意見を頂戴しています。一つは、目標に示した配当性向を守りつつ、減配は避けてほしいというご意見、もう一つは、配当性向を重んじつつも、成長投資は重要であり、両者のバランスを取りながら実施してほしい、というご意見です。いずれも正論であり、両方のご意見を念頭に、単に指標に準じるのではなく、その都度我々の株主還元に対する考えをお示しし、ご理解を得る過程を大切にしてまいります。
また、投資家の皆様からは、当社グループの認知度を高める取り組みや、近年、変化・伸長している事業についてもっと市場にアピールすべき、とのアドバイスも頂戴しています。そこで、いまだ接点の少ない海外投資家の皆様に当社グループについて知っていただく機会を増やそうと、企業情報をグローバルに伝えるリサーチ会社、株式会社シェアードリサーチ殿に委託し、当社グループの基本情報と足元の業績などをまとめた日本語・英語のレポートを昨年公開いたしました。今後も四半期ごとにレポートを公開し、当社グループを認知していただく機会を増やしてまいります。

ROIC経営の推進

[SG-Vision 2030]では、目標値にROEとROICを含めることで、損益と資本効率の両面を意識する計画としました。両指標は、中期経営計画の中間年であった2023年3月期は前年より下がったものの、ROICは、直接・間接部門の地道な努力で改善・向上する余地があることから、昨年、事業・製品ごとにROICを算出し、現状把握を行いました。今後はこれをもとに各市場の将来性や強みなどについて議論し、当社グループの事業ポートフォリオの将来像を可視化したいと考えています。
また、ROICは日常業務の改善・工夫など、従業員が関与できる指標であることを理解してもらおうと、社内報にROICの解説と「ROIC逆ツリー」を示す企画を掲載しました。 こうした活動を通じて社内の意識変革を促しています。

過去5カ年のROIC(実績推移)

当社グループの資本政策

[SG-2023]では、キャッシュ・アロケーションを

キャッシュ・アロケーション [SG-2023]目標水準
成長投資(設備投資、M&A) 300~400億円(累計)
配当性向 40~50%
自己株式取得 株価水準に応じて機動的に実施

としております。
これまでに実施した成長投資は約140億円と、原資となる営業キャッシュ・フローの減少もあり、目標に対して進捗率はやや遅れていますが、今後第2フェーズ、第3フェーズの中期経営計画が控えていること、コロナ禍や資材費高騰など前提条件の変化も加味しつつ、持続的な成長や、将来にわたって価値を創出するうえで必要な投資対象を厳選し、実施してまいります。

なお、今後の投資方針としましては、主に

  • 有望市場での売上規模拡大を具体化するM&Aの実施
  • 既存事業とは一線を画し、真水の増収増益を実現する新規事業の創出
  • 当社グループの経営基盤を支える主要事業の生産拠点の刷新(老朽化・生産効率向上対策)

これら3項が中心となる見込みです。

一方、東京証券取引所が強く求めている資本コストや株価を意識した経営施策において、当社グループのPBR(株価純資産倍率)およびROEは、各々同所が求める基準(1倍、8%)を下回っています。解散価値を上回り、海外投資家に関心を持たれる基準に達することは、プライム市場に属する企業として必然ながら、並行して長期を志向した企業価値向上策をお示しし、当社グループのビジョンに共感していただけるよう努めてまいります。

長期志向経営における財務管理について

[SG-Vision 2030]では、売上高4,000億円超を目標としており、この中には海外売上高の大幅伸長を含んでいます。事業規模の拡大に伴って運転資金も増加することから、従来にも増してキャッシュ・フローを注視しています。
また、海外との取引増加により、各国の為替変動が収益に与える影響が増え、債権回収リスクも高まることから、こうした財務リスクが発現せぬよう抑制にも取り組んでまいります。

次期中期経営計画の策定に向けて

[SG-Vision 2030]の中核を担う次期中期経営計画では、最終目標からのバックキャストにより各種施策を講じることになりますが、損益重視の傾向となりがちな事業活動において、ROE、ROICを改善・向上する施策の織り込みにも注視してまいります。
また、事業ポートフォリオの将来像を描く際も、投資家の皆様に投資に対するリターンや持続的成長について語れる内容となるよう、努めてまいります。

「統合報告書 2022」の発行から1年が経過しました。コロナ禍以降、各所における地政学リスクや、これに伴うエネルギー・材料価格の高騰など、企業経営にとってマイナス要素が相次いで顕在化し、長期目線で経営する難しさを感じる場面が多々ありますが、一方で、初めて10年に及ぶ長期経営計画に取り組む中、目指す姿を言語化した「長期ビジョン」の意義を再認識した1年でもありました。

今後も、さまざまな社会変化に対応しつつ、長期志向経営を実践してまいります。皆様におかれましては、当社グループの開示情報に関心をお持ちいただき、ご意見等お聞かせいただけますと幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。