ShinMaywa INSIGHT

【連載】「US-2」ができるまで(5)

-プロのライターが密着取材!

建造開始!
いよいよ機体の組立がはじまります


塗装が終わった部品は検品が終わると組立工場へ運ばれ、いよいよ組み立てがはじまります!
航空機の製造では、この段階を「建造開始」とします。

大型航空機の胴体は一般的に「セミ・モノコック」と呼ばれる構造でつくられています。これは「US-2」も同様。セミ・モノコックの胴体は次のような方法で製造します。

  1. 1胴体を輪切りにしたような形状の「フレーム(円框(えんきょう))」を数十個つくります。
  2. 2フレームを数十センチ間隔で並べ、隣り合うフレーム同士を「ストリンガー(補強材)」でつなぎます。
  3. 3「2」でできた骨組の外側に「スキン(外板)」を張り合わせます。



「US-2」の組立工程でも、まず数十に及ぶフレームをつくります。フレームを構成する部品は機体全体の基礎となりますので、ここまでの部品切り出し、加工等の工程でゆがみや穴の位置のズレがわずかでもあると使用できません。

そのため、いきなり部品同士を接合するのではなく、全体を仮組みして全ての部品に少しの異常もないかを慎重に確認し、問題がなければリベットで接合します。


次に、組み終わったフレームにストリンガーを組み付けて骨組みをつくり、その上からスキンを張っていきます。「US-2」の場合は、胴体(艇底、艇体)のほか、外翼(主翼)、艇尾、尾翼など、機体をおよそ10個のブロックに分けて並行して製造します。

セミ・モノコックの基本的な構造は、約80年前から変わっていません。これは川西航空機(新明和工業の前身)の二式飛行艇の内部です。(1)セミ・モノコックの基本的な構造は、約80年前から変わっていません。これは川西航空機(新明和工業の前身)の二式飛行艇の内部です。
治具に部品を設置。一般的には、これが航空機の「建造開始」とされています。いよいよ、「US-2」の製造が本格的にスタート!(2)治具に部品を設置。一般的には、これが航空機の「建造開始」とされています。いよいよ、「US-2」の製造が本格的にスタート!
部品精度の確認のため、フレームを構成する部品を次々に治具に取り付け、ロックピンという金具で仮固定しています。穴の位置がほんのわずか、たとえば0.1㎜ズレていてもピンが通りません。(3)部品精度の確認のため、フレームを構成する部品を次々に治具に取り付け、ロックピンという金具で仮固定しています。穴の位置がほんのわずか、たとえば0.1㎜ズレていてもピンが通りません。

機体を組み立てる治具にフレームを並べて固定していきます。(4)機体を組み立てる治具にフレームを並べて固定していきます。
フレームとストリンガーを組み合わせてできた「骨組み」にスキン(外板)を仮留めします。スキンの表面に傷がつかないよう、緑色のフィルムが貼ってあります。(5)フレームとストリンガーを組み合わせてできた「骨組み」にスキン(外板)を仮留めします。スキンの表面に傷がつかないよう、緑色のフィルムが貼ってあります。
仮留めしたスキンに問題がなければ、リベットで完全に接合していきます。(6)仮留めしたスキンに問題がなければ、リベットで完全に接合していきます。
工具でリベットを打ち込む様子。アルミは溶接するとその部分の強度が下がるためリベットで留めます。航空機にアルミが使われるようになった約80年前から変わらない技術です。(7)工具でリベットを打ち込む様子。アルミは溶接するとその部分の強度が下がるためリベットで留めます。航空機にアルミが使われるようになった約80年前から変わらない技術です。
「US-2」は機体を約10のブロックに分けて同時並行でつくっていきます。これは「外翼」と呼ばれる、主翼の外側(胴体に近い部分は「基準翼」)を組み立てる治具の全体像です。(8)「US-2」は機体を約10のブロックに分けて同時並行でつくっていきます。これは「外翼」と呼ばれる、主翼の外側(胴体に近い部分は「基準翼」)を組み立てる治具の全体像です。

部品の精度が低くても、また組立手順を間違っても、部品作りからやりなおし。全体の建造スケジュールにも影響を及ぼしかねませんので、組立中は何度も何度も慎重に確認する、緊張の作業が続くそうです。

大きな飛行艇ですが、非常に繊細につくられているのを改めて感じますね。


ライター 板倉秀典

 

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