ShinMaywa INSIGHT

【連載】「US-2」ができるまで(3)

-プロのライターが密着取材!

表面処理 
海水に負けない、腐食に強い部品をつくります


連載の初回でも投稿した通り、「US-2」はほとんどアルミ合金でできています。アルミは比較的腐食に強い金属ですが、それでも海水は天敵です。しかも「US-2」は、他の航空機と違って日常的に海水に触れます。海上自衛隊の航空基地には機体を丸洗いする「ウォッシュラック」という設備があり、飛行後は塩分を洗い流しますが、これも腐食を防ぐための処置のひとつです。

このように「US-2」は過酷な条件で運用されますので、製造時から徹底した腐食対策を施しています。それが「表面処理」と「塗装」です(塗装工程については次回紹介します)。

「表面処理」はその名の通り、金属表面を加工して性質を変えること。耐摩耗性を高めたり、光沢のある美しい見た目にしたり、熱に強くしたり、表面の一部を削り取ったりと、その目的はさまざまですが、「US-2」のアルミ部品の場合は、主に耐食性を向上させることと、塗装が剥がれにくくすることを目的として、複数の方法で表面処理を行います。甲南工場にはこのための専用の設備があり、部品の大半をそこで加工しています。

なお、表面処理の方法はアルミ合金やステンレスなど素材によっても異なります。また、もともと腐食に強いチタン合金や複合材には表面処理を行わないそうです。

甲南工場にある表面処理の設備です。薬液が入った大きな水槽が並んでいますが、処理方法によって使い分けます。(1)甲南工場にある表面処理の設備です。薬液が入った大きな水槽が並んでいますが、処理方法によって使い分けます。
表面処理を行う部品をラックにセット。このラックをクレーンにつるし、水槽上で上げ下げすることで表面処理を行います。(2)表面処理を行う部品をラックにセット。このラックをクレーンにつるし、水槽上で上げ下げすることで表面処理を行います。
素材に影響を与えないよう、部品をつるす針金もアルミ製。部品同士が重ならないように、全体がむらなく薬液に触れるようにセットします。タグも部品にくっつかないように微調整。(3)素材に影響を与えないよう、部品をつるす針金もアルミ製。部品同士が重ならないように、全体がむらなく薬液に触れるようにセットします。タグも部品にくっつかないように微調整。

最初に素材を洗浄します。これまでの工程で、部品にはアルミくずや手指の脂などさまざまな不純物がついていますので、それらを洗い流します。(4)最初に素材を洗浄します。これまでの工程で、部品にはアルミくずや手指の脂などさまざまな不純物がついていますので、それらを洗い流します。
続いて薬液の入った水槽に漬けます。薬液の種類や濃度、温度、素材を浸す時間など、加工の種類によって細かい規定があります。(5)続いて薬液の入った水槽に漬けます。薬液の種類や濃度、温度、素材を浸す時間など、加工の種類によって細かい規定があります。
乾燥させて表面加工の工程は終了です。通常は表面処理が終わってから規定の時間内に次の「塗装」工程に進む必要があります。(6)乾燥させて表面加工の工程は終了です。通常は表面処理が終わってから規定の時間内に次の「塗装」工程に進む必要があります。
表面処理後の部品と、表面処理前のアルミ合金(手に持っているもの)を並べてもらいました。全く同じ材質とは思えないほど見た目が変化していますね。(7)表面処理後の部品と、表面処理前のアルミ合金(手に持っているもの)を並べてもらいました。全く同じ材質とは思えないほど見た目が変化していますね。


ライター 板倉秀典

 

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