航空旅客搭乗橋「フルオートシステム(完全自動装着システム)」“Intelligent PAXWAYTM AI Fully Automatic Docking System”の開発

AI画像認識技術の活用で、世界初の技術を実用化

開発の背景

インバウンド需要の増加は空港施設の活性化を促す一方で、以下に示す諸課題への対策が求められている。

  • ヒューマンエラーの防止
  • 現場環境の効率化、就業環境・サービスの改善
  • 慢性的な人材不足対策(高い離職率)、操作訓練時間の短縮
  • 定時運航率の向上

これらの課題解決・軽減を目指し、国土交通省は「航空イノベーション推進官民連絡会」を設置して、地上支援業務の省力化、自動化の推進に乗り出している。
これらは世界共通の課題でもあり、国内のみならず、各国の空港においても自動化への取り組みが推進されている。

新明和のソリューション

国内外の空港施設に対して1,000基以上の納入実績を誇り、東南アジアではトップシェアを誇る新明和の航空旅客搭乗橋(Passenger Boarding Bridge、以下PBB)。
その高い技術力を「空港のスマート化」に生かそうと、航空機のドアの10センチ手前までPBBを自動走行させる技術を開発。2015年10月から2018年3月まで、徳島阿波おどり空港で実証実験を繰り返して安全性を確認し、同空港にて実運行中の商用機に対して世界で初めて航空旅客搭乗橋の自動装着を実現した。

新明和の研究開発はそこで終わらない。遠隔で操作することを想定し、2020年には「フルオートシステム(完全自動装着システム)」の開発に成功。シンガポール チャンギ空港での実証実験を経て、2023年にはチャンギ空港を運営するチャンギ・エアポート・グループ(以下、CAG)様と共同で、こちらも世界で初めて、実運航中の商用機に対して、遠隔操作による搭乗橋の自律型完全自動運転(“航空機機種選択レス”方式)による装着に成功した。

  • 世界初について:世界の空港に関する既報道内容、および競合他社に関する動向把握に基づく。

フルオート・ドッキングシステム(完全自動装着システム)“Intelligent PAXWAYTM AI Fully Automatic Docking System”の主な特長

  1. 1.装着対象機種を問わない、“航空機機種選択レス”方式による高い汎用性。
  2. 2.搭乗橋を走行させ、航空機のドアに完全装着するまでの工程を自動化。
  3. 3.「2」の操作は、始動ボタンを1回押すだけで完了。ドア位置は設置カメラが都度正確に検出するため、機種指定操作も不要。人員不足が課題の空港施設の省人化、およびヒューマンエラー防止に有効。
  4. 4.AI機能搭載により、通常の画像処理と比べて天候や環境の変化・機体のペイント等、変動要因にも柔軟に対応し、ドア位置を正確に検出。特殊要因によりドア位置が検出できなかった場合は、再学習により検出能力をアップデートし、次回装着に備える機能を有する。

開発現場の声

パーキングシステム事業部 空港施設本部 設計・技術部 電気設計グループ
 下森さん

月の6割以上は海外出張という下森さん。 写真は新設工事の検査に訪れた台湾桃園国際空港にて ガラス式航空旅客搭乗橋をバックに。
(写真は、工事範囲エリア対象外にて安全に配慮して撮影しております)

世界初となった搭乗橋の自動装着の実用化に成功した前任者から開発を引き継いだ私は、「常にトップランナーであること」を旗印に、“他社より一歩先を行くこと”を目標とし、「完全自動装着」+「遠隔監視」=「自律型完全自動運転」の実現を目指してプロジェクトに挑みました。

「完全自動装着」の開発では、最終的に、PBBを航空機のドアの10センチ手前まで自動走行させる従来型とは異なるシステムを構築したのですが、従来型の開発過程で、先輩がAIの画像認識技術を活用するという活路を見出してくれたからこそ、完成にたどり着けたと考えており、先輩に感謝しています。0(ゼロ)から1(イチ)にすることがいかに大変なことか、開発者として実感しています。

2019年からチャンギ空港にて実証実験を開始し、2020年にはその安全性と精度について同空港や同空港を利用する航空会社から高い評価を得られ、商品化が決まったときには、第一段階をクリアしたという達成感がありました。

開発過程で最も苦労したのは、前例のない「遠隔操作」に取り組む最中、「制御および画像遅延」という問題に直面した時でした。制御遅延に対しては、新たな通信プロトコルを採用することで解決できました。画像遅延については、「フレームレート」、「解像度」、「通信機器選定」、「通信環境整備」等々、さまざまな検証を繰り返し、これまでの操作性と差異のないレベルを模索し続けました。その結果、2023年に「自律型完全自動運転(航空機機種選択レス)」の実用化に世界で初めて成功したときは、最難関かつ最終目標を達成した嬉しさをかみしめました。

また、完璧なAI技術が存在しない中、チャンギ空港でのトライアル運用期間において、本システムを搭載した搭乗橋の運用率が高いKPIを達成、共同開発者であるCAG様から高評価を得ることができ、2025年5月には、同社とレベニューシェア契約を締結する運びとなったことも大変光栄な出来事でした。

今後は、関係各所から評価していただいた「世界初」の技術力、これまで世界各所に1,000基以上PBBを納入した実績、そして長きにわたって多くが現役稼働中の高品質・高耐久性の製品ラインアップを武器に、日系企業である新明和ブランドを、世界の空港にもっと知っていただきたいと考えています。
また私自身も、本システムの完成に慢心せず、保守の観点でのAI拡張や他社設備とのインターフェースを強化する等、空港全体の運用最適化に貢献するべく、新たな「世界初」の実現に向けて挑戦を続けたいと考えています。

レベニューシェア契約とは

発注側と受注側が連携して事業を行い、その事業で得た収益(レベニュー)をあらかじめ定めた比率で分配(シェア)する成果報酬型の契約方式。
今般の契約では、CAG様は、当社が開発した自律型完全自動運転(航空機機種選択レス、完全自律型遠隔操作式フルオート・ドッキングシステム)の開発・商用展開を引き続き支援するとともに、同システムの拡張開発に向け、チャンギ空港での運用試験用プロトタイプPBBの製造に共同で取り組むことが記されている。本契約は、CAG様と、当社のシンガポールの現地法人ShinMaywa (Asia) Pte. Ltd.間で締結したもの。