役員鼎談(ていだん)

取締役会の実効性向上に注力
- リスクと機会を的確に捉えたガバナンスの実践 -

2026年4月の社長交代に伴い、前任社長の五十川が会長職に就き、会長、社長が連携してガバナンスと収益基盤強化を推進する体制に移行しました。これは、経営理念に描く企業像を志向し、長期ビジョンの達成を追求する中、近年相次いで不祥事が発現したことを受け、持続的成長と並行してステークホルダーの信頼獲得に努める会社の意志を示したものです。

今回の鼎談では、この新たな経営体制をベースに、会長の五十川、社外取締役の梅原、杦山の3名が、「リスクマネジメント」の観点で近年の不祥事を踏まえて再発・未然防止に向けた取り組みや、多様なリスクを成長機会として捉える意義について語り合いました。

2026年度にスタートした新体制について

五十川

私が会長に就任した背景には、社長在任中に目まぐるしく変化する経営環境や高まる世の中の不確実性を実感し、当社グループが持続的な企業価値向上を遂げていく上で「事業執行における意思決定の迅速化」と「取締役会の監督機能強化」、この二つのテーマを着実に推進する体制が必要と考えたからです。

昨年、事業執行に関わる社長の決裁権限を大幅に拡大し、これを受けて取締役会の事業執行に対する監督機能も強化しました。

会長職に就いた私は、業務執行とは一線を画し、中長期の視点で経営を俯瞰(ふかん)し、取締役会議長の立場で監督機能に専念しています。社長は「事業成長を推進(攻め)」、会長は「ガバナンスの実効性を高める(守り)」、それぞれの責務を果たしながら、当社グループの将来価値の向上に取り組んでいます。

梅原

私は、「指名・報酬委員会」の委員長も担っています。今般の社長交代にあたっては、五十川さんからの申し出を受け、他の委員と共にガバナンスの強化と事業成長の両者を成し遂げる新たな経営体制について、ニュートラルな立ち位置で多方面の選択肢も含めて検討を重ねました。就任前の槶原さんには、委員会メンバーのヒアリング、社外専門機関によるアセスメントや360度評価を受けてもらい、ご自身の強みと課題を認識していただく手順を踏みました。また、五十川さん、槶原さんとじっくり対話し、それぞれの役割を認識していただく機会を設けた上で、委員会として今般の体制変更を承認し、取締役会に上程しました。

杦山

今回の社長交代は、当社にとって良いタイミングであったと思います。ここ数年、独占禁止法違反を筆頭にコンプライアンス問題が複数発生したという事実を受け止め、ステークホルダーからの信頼を取り戻すべく、五十川さんには、特にコンプライアンス面を重視した管理監督機能を発揮されることに期待しています。

五十川

近年、取締役会は、ステークホルダーから「実効性の向上」を求められています。本年4月から新たなスタンスで取締役会議長を務める中、

  1. 1議論の質の向上
  2. 2中長期の経営課題に主眼を置いた議論
  3. 3リスクに対する監督機能の強化
  4. 4社外取締役が有する知見の活用
  5. 5後継者育成・指名機能の強化

これら5項を意識した運営に努めています。

これまでの取締役会は、事業執行に関わる報告や議論に重きを置く傾向にありましたが、今後は中長期的な企業価値の向上に向けて、サステナビリティ経営や人財戦略などの重要なテーマについて、より本質的な議論を深め、監督機能の実効性を高めていきたいと考えています。そして、今春社長交代を行ったところではありますが、社長後継者の育成を含むサクセッションプランも、取締役会が継続的にモニタリングすべき重要なテーマとして取り組んでいきます。

また、取締役会を承認機能を中心とする運営から、「経営戦略について議論し、業務執行を適切に監督する機関」へと転換することも、私の使命と考えます。

昨年、内部統制とリスクマネジメントの強化を目的に「3ラインモデル」を導入しましたが、これは、事業執行に対する取締役会の監督機能をより実効性の高いものにする取り組みでもあります。多様化・複雑化するリスクを把握し、これらに適切に対応していくには、組織横断型のリスク管理体制が必須となります。そのため、3ラインモデルを介して吸い上げたリスク情報を取締役会がタイムリーに把握し、経営判断に活かす仕組みをつくっていきたいと考えています。

梅原

当社は事業部の力が強く、5つの事業部を個々に独立した存在のように感じたこともありましたが、五十川さんが社長在任中「Convergence(融合)」に腐心された結果、本社、各事業部の交わる機会が増えました。

今後、さらに融合を深めていくには、複数の事業部を経験した人財を増やす必要がありますね。近年、日本のスポーツ界が海外勢と互角に戦えるようになったのは、ひとえに個々の選手が世 界で通用するレベルを目指して武者修行した成果と言えます。企業も同様で、特に将来を担う若手従業員を対象に海外市場、すなわち新しいマーケットに目を向ける機会を提供し、現地の価値観を直接会得することで、グローバルを基点に物事を考える視点が養われていきます。こうした取り組みを、部門単位ではなく、人事制度の一環として会社を挙げて計画的に推進することが社内の活気を醸成し、ひいては新たな事業ポートフォリオの形成へとつながっていくのではないでしょうか。
突き詰めると、持続的成長を具体化するのは「人」だということです。とにかく「人」が大切。「人」が成長する制度を設けることです。

近年、当社で起こった不祥事を振り返って

五十川

梅原さんの言われるとおり、「制度」に基づいて人財を育て、そこから逸材を輩出していくことが、会社存続の礎となります。

この数年間に発生したコンプライアンス違反は、いずれも「人」の判断や行動を起点とする事象でした。

杦山

機械式駐車設備、特装車に関する独占禁止法違反については、当時監査役の立場で状況報告を受けました。

この2件の当事者は、いずれも「私利私欲ではなく、会社のために良かれと思ってやった」という、談合や価格カルテルにありがちな見解でした。
これは、はっきり申し上げて自身の違反行為を正当化したに過ぎません。多くの仲間やお客様、取引先に迷惑をかけ、多額の課徴金を支払い、レピュテーション(評判)を下げたことを考えると、何ら会社のためになっていないことは明白です。

当事者に「会社のため」という意識が強かったとすると、こうした行為を正当化する企業カルチャーがあったと考えられますので、これは一掃しなければなりません。

また、パーキングシステム事業部の機械式駐車設備の屋根材に関して、国土交通大臣認定仕様に適合しない部材を使用していたことについても、自社の製品に関する遵法意識が希薄だったと言わざるを得ません。本件を教訓とし、同様の事象を繰り返さない仕組みをつくり、実践することが肝要です。

五十川

いずれの案件も、第一線で働く従業員に、お客様や取引先に対して事情を説明し謝罪する役目を担わせてしまい、大変苦労をかけました。今般の一連の事象は、全ての部門が自らの問題、教訓として受け止めるべきものであり、決して「対岸の火事」と捉えてはなりません。過去から続く慣習や前例も、時代や社会の要請に照らして常に見直すという問題意識を持ち、コンプライアンスの徹底と企業風土の改革につなげていくことが重要です。

梅原

会社側はトップダウンによるルール設定、遵法教育と率先垂範、現場ではボトムアップによるルール遵守、この両者が信頼関係でつながり、実践されなければ、ほころびが出てくるものです。これは、安全についても同じことが言えます。「安全は全てに優先する」と掛け声はかけていますが、果たして、全社を挙げて真にそのように実践できているでしょうか。ルールを制定し、これを徹底して遵守させる仕組みが機能していれば安心ですが。

ちなみに、ここで申し上げたルール遵守の対象には、取引先も含まれます。時間の経過とともにやすきに流れるのが人の常ですから、五十川さんには「人」に着目し、トップダウンで本社を動かして、自らリスクを冒さない、社会から評価される人財育成を促していただきたいと思います。

五十川

法令遵守は当然のことながら、企業モラルに対する社会の目はますます厳しくなり、こうした要求に常に応えられる企業であらねばなりません。

昨年、事業部門が自らを律して行動し(第1ライン)、それを本社の各部門がモニタリング・サポートし(第2ライン)、第1、2ラインの行為を監査部門がチェックする(第3ライン)体制=「3ラインモデル」を内部統制の仕組みとして導入したのも、自浄機能の醸成を意図してのことです。複雑かつ多様化するリスクに対処するには、一方通行ではない、組織横断型リスクマネジメントの実践が有効と考え導入しました。第2、第3ラインは本社の各部門が担い、「攻め」を担う社長、「守り」を担う会長をサポートする、という重要な役目を担っています。

リスク要因に関しては、メガトレンドが抱えるネガティブリスクを我々が事業機会に転化できればポジティブリスクとなります。こうした観点で、取締役会の議論を深めたいと考えています。

杦山

先ほどは厳しいことを申し上げましたが、一連の事後対応も拝見してきた立場として、法務部を中心に推し進められてきた事実関係の調査や、関係者に対する厳正な社内処分の実施、再発防止策の内容などは評価しています。

当社には、「私たちは、高い倫理観で、損得より善悪を優先します」と第1項に記した行動指針が存在します。五十川さんが、この一文を引用したメッセージを社内報やイントラネット等を通じて繰り返し発信されたことも、重要な再発防止策の一環と捉えています。独占禁止法に関しては、実際の業務に即した正しい知識を身に付けることが大事であり、専門家である弁護士を招いて社内研修を行ったことも有益でした。また、一連の事象をきっかけに、外部者との接触について定めた規程や社内リーニエンシーに関する規程も新設されました。大切なのは、コンプライアンス教育を繰り返し行うことです。そして、グループ経営を推進する中、こうした規程が整備されていないグループ会社を本社が指導し、皆が同じスタンスで取り組むことも大切です。

不正を未然に防ぐ策の一つに「内部通報制度」があります。導入当初は利用者数が少なかったものの、近年は制度の認知と信頼性が高まったようで、相談件数が増えつつあります。本制度の活性化も、自浄作用を高める上で有効です。

グローバル社会の劇的変化は「好機」のリスク

梅原

コンプライアンスもその一つですが、社会における価値観は確実に変化しています。当社も、社会と連動して変わっていく必要があります。

繰り返し申し上げますが、価値観は「人」に備わるものであり、これを正しい方向に形成していく上で、「人事制度」と「教育」がとても重要です。

当社グループが今後も持続的成長を遂げるには、グローバル市場の拡大が鍵となるでしょう。この、新たな環境に適応し、活躍する人材の存在が、さまざまな変化やリスクを好機に転換する原動力となります。当社では、既に選抜教育は実践されていますが、望ましいのは、入社時から「人づくり」を継続して行う制度を設けることです。この制度に基づけば、自ずとグローバル市場や新規事業創出で活躍する「人」が育ち、中途入社者にも平等な機会を提供する、そんな人事制度を期待しています。

具体的には、海外法人に出向したり、社内に設けたスタートアップ会社の経営を任せてみるといった教育プログラムを通じて、若手の頃にさまざまな実体験を積ませることに意義があります。

杦山

若いうちに、さまざまな実体験を積むのは有意義なことです。当社は国内外に多数子会社を有していますから、幹部候補者には、視野を広げる目的でこれら現地法人の社長を経験させるのも有益ではないでしょうか。世界の文化に 適応する人財がどれほど存在しているかが企業力につながるように思います。

梅原

従業員が他流試合できる「場」を提供することが大切です。同じ課題を抱えた外部者と切磋琢磨する、そんなチャレンジが容易にできる環境が整えば、と思います。

五十川

新たな価値創出に向けて挑戦し続けられる環境づくりが、持続的な成長には不可欠です。挑戦した結果、生じた失敗を単に否定するのではなく、そこから得られた経験や学びを次の挑戦や行動に活かす組織風土を醸成することが、企業文化の変革を促します。また、こうして生まれた新たな風土の定着は、従業員一人ひとりの主体性を高め、エンゲージメントの向上へとつながります。本社が中心となって変革をけん引し、グループ全体に「挑戦」を尊重する文化を根付かせていくことが重要と考えています。

梅原

本社に期待することをあえて一つ申し上げると、事業を支える経営資源の最適化(例えばキャッシュアロケーション、人材ローテーション等)については、意思決定プロセスを見直して今以上に本社の関与、方針を強化するべきではと思います。そのことによって本社と事業部の役割がさらに明確となり、事業部から一目も二目もおかれる存在になると思います。

五十川

梅原さんのご意見に加え、事業部間における人財や技術の交流を促進し、各事業が有する知見や強みを横断的に活用して新たな価値創出につなげていく役割も、本社が担っています。

梅原

当社の技術は、業界で長年高く評価され続けているすばらしいものです。一方で、現有技術を棚卸ししてみると成熟したものが多く、今のグローバル市場でストレートに太刀打ちできるものは少ないでしょう。世の中の変化に対応し、新たな価値を生み出すには、他の技術との融合が不可欠です。本社が中心となり、こうした思考で技術面でもテコ入れできれば、具体的な成果につながっていくでしょう。

事業執行側に期待すること、取締役として果たす使命

梅原

昨年、監査等委員会設置会社に移行したことに伴い、業務執行に関する権限は執行側に移りました。執行側に求めることは、各種プラットフォームの強じん化と、「人」の育成です。また、安全面にも課題があると認識しています。

他方、取締役会で議論すべきテーマが多くあり、月1回の会議では時間が足りません。取締役会とは別に、深掘りするテーマを決めて意見交換する場を設けることを提案したいと考えています。メンバーが真摯に意見を交わすことで、取締役会の実効性を高めていきたいですね。

杦山

取締役会の役割は、モニタリング重視に移行しています。モニタリングを適正に行うには、審議の判断材料となる情報量が社内外で差異のないよう、我々社外取締役にも同等の情報が共有されることが前提となります。経営会議などでどのような議論がなされたのかも、判断の助けや充実した議論の源となります。

各議題の説明についても、全社を俯瞰した、一貫した視点でなされるのが理想であり、その役目を担う本社機能の強化は欠かせないと考えます。

五十川

リスクマネジメントの観点から事業執行側に期待することは、リスクに対する感度を高め、適切にコントロールすると同時に、リスクを成長機会へと転換するチャンスと捉え、積極果敢に挑戦する姿勢を持つことです。

本年改定されたコーポレートガバナンス・コードでは、企業におけるリスクの回避・抑制や不祥事の防止といった「守りのガバナンス」にとどまらず、会社の迅速・果断な意思決定を促すことを通じて、企業の「稼ぐ力」を高める「攻めのガバナンス」が謳われています。取締役会では、事業執行側が、将来のリスクを単なる脅威として回避するのではなく、成長の機会と捉え、適切なリスクテイクのもとで企業価値向上につなげているかという点を監督していきます。

また、梅原さん、杦山さんの発言にもあったように、取締役会の審議の活性化を図り、社外取締役への情報提供を含めた適切な支援を行う上で、「取締役会事務局(コーポレートセクレタリー)」の役割がますます重要性を増しており、これに応えられるよう本社の機能・体制を充実させていくことも私の使命と考えます。

本鼎談の最後に申し上げたいのは、リスクマネジメントとレジリエンスの強化は、不確実性の高い環境の中で企業の持続的成長を促す「両輪」である、ということです。この二つを一体的に機能させて、危機を成長の機会へと転換し、変化に強く、成長し続ける組織を目指して取り組みます。そして、取締役会としても、こうした視点を踏まえた議論を重ね、意思決定の質を一層高めて、当社グループの持続的な企業価値向上に貢献してまいります。