トップメッセージ

「経営理念」「長期ビジョン」の体現を通じて、常に社会から必要とされる企業グループを目指します。

2020年2月に迎えた創業100周年は、当社グループの経営の在り方について改めて考える貴重な機会となりました。この頃、「技術進化の加速、社会環境の激変に対して、これまでの短期志向では、変化への対応が後追いになる。長期志向で社会未来像を見据えて目指すべき姿を描き、その実現に向かった経営で持続的成長を図っていく」という、長期志向経営に舵を切ることを決定しました。そして、この新たな方針に基づき、「継承していくこと」と「変えていくこと」を整理し、明文化したのが「経営理念」と「長期ビジョン」です。
この直後に、新型コロナウイルス感染症が世界を脅かし、また、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻も世界全体に多大な影響を与える中、今日まで、当社グループの強みや将来リスクについて思慮してまいりました。

こうした私の想いを踏まえまして、当社グループの足元の状況、課題、そして将来についてお話しします。

代表取締役
取締役社長
五十川 龍之

100年企業 ― 新明和グループのこれまでの歩みと強みについて

当社グループの原点は、1920年の創業時に遡り、前身会社「川西機械製作所」の中に設けられた「飛行機部」が発祥となります。同部は後に航空機を専門に製造する「川西航空機」となり、二式飛行艇や紫電改といった名機を生み出しました。
敗戦により国内での航空機製造が禁止されましたが、この戦後復興期が、現在の当社グループの主力事業につながっていく第二の原点といえます。先輩諸氏が、「国の復興に努め、従業員の雇用を守る」という強い使命感を持って最初に手掛けたのは、人々が求める細々とした生活用品でした。その後、「できるものは何でも作る」の精神で米軍の車両修理を引き受けたことをきっかけに、独自の技術でダンプトラックを開発しました。他にも、川西航空機時代に培った技術力を活かして自吸式ポンプ、各種産業機械と、社会が求める製品・設備を次々と世に送り出した先輩諸氏のパワーには、ただただ頭が下がります。
「もう一度、この会社で航空機をつくりたい」という大きな夢を抱き続け、1952年から念願の航空機事業を徐々に再開するとともに、下水処理向け水中ポンプや機械式駐車設備、さらにはごみ中継施設など、日本の高度経済成長と並走して拡大するインフラ領域の事業を手掛けた結果、現在の5つの事業構成に至りました。 
いずれの事業分野も多くの専業メーカーが存在する中、当社が、各業界の先駆者であったことを誇りに思うとともに、創業当時から、お客様の課題解決やご要望を、高い技術力と豊富な経験を通じてカタチにしていくという精神とその姿勢は一貫しており、現在もしっかり引き継いでいます。


これら5つの事業の中で、皆様にとって最も身近な製品は「特装車」かもしれません。特装車の代表格であるダンプトラックや塵芥車(ごみ収集車)は、国内において、2台に1台の割合で当社のロゴマークがついている高シェア製品です。また、マンションにお住まいの方は、併設されている機械式駐車設備が当社製かもしれません。そして、皆様が出されたごみを、最終処分場に輸送する途中で減容・分別する環境施設や、下水を下水処理場へと圧送する水中ポンプをはじめとする水処理関連製品も扱っております。さらには、皆様が利用される主要な民間旅客機にも当社製の部品が使われており、当社グループの製品の多くが、実は、皆様の生活と接点の多いことがお分かりいただけるのではないでしょうか。
近年は、AIやIoT、画像処理をはじめとするデジタル技術の飛躍的な進化に伴い、当社グループの製品・サービスをご利用・運用しておられる皆様のご要望・要求にしっかりとお応えできるよう、これらのスマート化(自動化、無人・省人化、利便性・安全性向上など)にも取り組んでいます。
また、新型コロナウイルスの感染拡大、各所で頻発する大規模自然災害、ロシアのウクライナ侵攻に代表される地政学リスクの発現など、世の中はこれまで以上に不確実性が高まっています。これに伴い激しく変化するビジネス環境に対応するため、今後は、経営戦略上、特に重要と位置付けているDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略の実践に向け、DX人材の確保・育成に取り組むとともに、当社グループの成長に不可欠な「個の多様性」を最大限に活かすことのできる「D&I施策」を実践するなど、人材戦略にもしっかり向き合ってまいります。

当社グループの価値創造プロセス

ここで、当社グループの経営活動の循環を示した「価値創造プロセス」について説明します。
経営の軸は、「社是」を頂点とする新明和グループの理念をよりどころとしており、「経営理念」と、2030年を目標年とする「長期ビジョン」の体現に努めているところです。

長期ビジョン

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「長期ビジョン」は、目先の変化と収益のみに捉われず、長期目線で成長・拡大を志向した経営を推し進めたいと考え、その鑑となる2030年の在りたい姿を示したもので、こうした思考は当社グループにとって初めてのことです。
この、「長期ビジョン」到達への道筋を描いたのが、長期経営計画[SG-Vision 2030](以下、[SG-Vision 2030])です。2023年度は、[SG-Vision 2030]の3年目にあたります。
社会インフラと接点の多い当社グループにおいて、グローバルな観点でのメガトレンドは常に意識しておく必要があります。「人口動態の変化」「気候変動対策の進展」「地政学リスクの高まり」「社会構造・生活様式の変容」「テクノロジーの進化」の中から、特に当社グループと関係の深いテーマを選定し、これらの変化を注視しています。
また、価値創造プロセスにおけるINPUTにあたる主要な投入資本は、「財務資本」「人的資本」「製造資本」「知的資本」「社会・関係資本」「自然資本」の区分で管理し、個々のマテリアリティを設定しています。

資本区分 マテリアリティ
財務資本 長期経営計画の第一フェーズにあたる中期経営計画にそったキャッシュ・アロケーションの決定
人的資本 「人材資源管理」から「人材価値向上」へと思考転換
製造資本 顧客個別仕様/多品種少量生産に対応する、高度な製造ノウハウと生産技術
知的資本 さまざまな事業で培った技術やノウハウ、それらと外部の先端技術を適切に融合し、新たな価値を創造
社会・関係資本 創業以来100年以上にわたり、人々の暮らしや社会インフラを技術・製品・サービスで支えてきた実績と、これに基づく信頼、強固なサプライチェーン
自然資本 地球温暖化防止と循環型社会への貢献

当社グループの投入資本をこれら6つの区分で把握し、各マテリアリティを実現していく配分について検討・実践しています。そのよりどころとなるのが、[SG-Vision 2030]です。「長期ビジョン」の達成を志向する中、事業の成長・拡大を促す「長期事業戦略」と、足元を固める「経営基盤強化」、この2つの経営方針を柱とする8つのテーマに取り組んでいますが、10年という長丁場を一本の計画で推し進めることは難しいと考え、【転換】【拡大】【飛躍】と題する3つの中期経営計画を通じて長期経営計画の目標に至る構成としました。


成長・拡大の要となるのは、「セグメント成長戦略による基盤事業の規模拡大」と「新事業創出」です。「基盤事業の規模拡大」は、製品・サービスの高付加価値化を加速させるとともに、「海外展開加速」と「戦略的M&A」を核とする施策を実践してまいります。

「海外展開加速」については、これまでは、主に事業単位でお客様・取引先様の要請に応えて拠点を設けてきましたが、今後は、特に製造・販売に重点を置き、事業部間や海外グループ会社との連携を密にすることで、当社グループの強みを発揮し、シナジー効果が期待できる市場を見定め、同地に経営資源を集中的に投下する方針です。

「戦略的M&A」については、国内市場では業界再編や製品・サービスのラインアップ強化に主眼を置き、自社の強みと課題をよく把握したうえで、シナジーの最大化を勘案したM&A戦略を推し進めます。また、海外展開においてもM&Aを特定の地域へ進出するための足掛かりとすべく、当該地域の有力企業のグループ化も積極的に検討してまいります。

「新事業創出」については、冒頭で申し上げた歴史を経て現在5つの事業を有していますが、これらは昭和の時代に形成されたもので、その後自ら大きな変化を起こせていないことに危機感を抱いており、それが「長期ビジョン」策定の一つの原動力となりました。成熟した社会において新たな事業を創出し、軌道に乗せるのは並大抵のことではありませんが、常識を覆す変化が各所で生まれる時代には、大きなチャンスがあるともいえます。性急に事を運ばず、2030年という少し先の未来を通過する頃、新しい分野で相応のポジションを得ることを目標に取り組んでいます。

また「基盤事業の規模拡大」や「新事業創出」実現のためには、市場の変化に柔軟に対応できる環境を構築し、新事業・新製品の開発環境を確立することが不可欠です。
そのためにも、今後は「情報(データ)」を中核にした業務革新と 、既存事業の延長線上には存在し得ないビジネスモデルの変革など、DXの推進が必須であり、これを遂行できる組織能力の確立を目指してまいります。
こうした成長・拡大路線と並行して注力しなければならないのが経営基盤強化です。2022年にプライム市場に移行し、事業活動でも海外市場を志向する当社グループにおいて、グローバル目線で社会的要求に応える姿勢は必須です。お客様・取引先様から、信頼できる企業グループと認めていただけるよう、また、世界の投資家の皆様から、持続的な成長を期待していただけるよう、環境、社会、ガバナンス(ESG)を重視した戦略を「長期事業戦略」「経営基盤強化」それぞれに織り込み、本報告書を通じてその進捗状況を年次報告することで、ご評価いただきたいと考えています。中でも、6つの投入資本のマテリアリティや長期経営計画を推進していくうえで、経営戦略と連動した人材戦略を立て、必要人材の獲得と配置の最適化を推し進め、企業価値の向上と同時に従業員のエンゲージメント向上に努めるなど、
「人的資本経営」にも注力していきます。

こうした一連の経営活動=価値創造プロセスを繰り返し、「長期ビジョン」=[SG-Vision 2030]の目標年である2030年度には

売上高 4,000億円以上
海外売上高
(上記売上高の内数)
1,000億円以上
ROE
(自己資本利益率)
12%以上
ROIC
(投下資本利益率)
10%以上

の達成を目指してまいります。

中期経営計画[SG-2023]の進捗状況

現在は、先ほど申し上げた3つの中期経営計画のうち、第1フェーズ【転換】にあたる中期経営計画[SG-2023](以下、[SG-2023])に取り組んでおり、2023年度は、その最終年度にあたります。図らずも、第1フェーズはコロナ禍と重なり、計画立案時(2019年)と前提が大きく変わってしまったことは否めません。そのため、企業の実力を示す重要指標である営業利益は、当初計画に対して未達となる見込みですが、売上高は計画値を上回る見込みであり、コロナ禍にあっても、当社グループの事業の大半は社会インフラとして各所で機能し、恒常的に必要とされていることを改めて実感しています。
2022年度は、5つの事業の中で、これまでも業績をけん引し、最も大きな収益貢献を期待していた特装車セグメントが、主要部品の調達難や材料価格の高騰で苦戦し、これに続くパーキングシステムセグメントも同じ理由で目標利益を下回りました。幸い、両セグメント共に受注環境は好調を維持していますので、売価改善と調達の復調に伴って、2023年度は利益水準の回復を見込んでいます。一方、この期間に計画を大幅に上回る成長を遂げているのが産機・環境システムセグメントです。基盤となるメカトロニクス、環境システムいずれの分野も堅調であることに加えまして、2018年にグループに加わったKOREA VACUUM LIMITED(韓国)の主力製品「車載用二次電池向け真空乾燥装置」の伸長が著しく、また2022年度に産機・環境システムセグメントから独立した流体セグメントも、2021年に当社グループに加わったTurboMAX Co.,Ltd.(韓国)の貢献もあって目標を上回る進捗となっています。
コロナ禍で最も苦戦を強いられた航空機セグメントは民間航空機コンポーネントの原価低減活動の成果が出始めたことに加え、円安効果も手伝って、最終年度の利益は計画目標値を超える見込みです。
このように、[SG-2023]では、M&Aによりグループに加わった企業の貢献が顕著であり、「成長・拡大」「海外展開加速」の両面で大きな進化を遂げています。
コロナ禍に起因する部品等の調達難は一過性のリスクと考える一方で、材料価格の高騰は、短期間に地政学要因が払拭されるとは考えにくいため、当面はこのリスクを織り込んだうえで一定の利益率を確保する対策が必須であり、お客様に必要な値上げについてご理解いただく取り組みも継続してまいります。

次期中期経営計画の検討・策定について

[SG-2023]が残すところ半年となり、現在、第2フェーズ【拡大】にあたる次期中期経営計画の策定に着手しております。長期経営計画の構成として、この10年間を3つの中期経営計画でつなぐにあたり、その中核的役割を担う次期中期経営計画の策定手順において、第1フェーズで未達となる課題や新たに発現したリスクを整理し、アップデートしたメガトレンドと照らしつつ、「長期ビジョン」に描く姿からのバックキャストで、この期間になし得ておくべき事項を洗い出し、具体的な施策に落とし込むことが肝要です。「4,000億円以上」という売上目標は現状の約2倍相当であり、そのうちの四分の一以上を海外売上高で構成するという目標も、これまでにない思い切った策をとらなければ到達できないと覚悟しています。
具体策として、先に述べた「新事業創出」に粘り強く取り組み、新分野で収益をあげるめどが付くか否か、また、国内外の有望企業との協業やM&Aの成否が軸になると考えています。「新事業創出」については、現時点でエネルギーや水・資源、モビリティー、デジタルなどに関連したテーマに取り組んでおり、これらはいずれも長期ビジョンに示した「都市・輸送・環境インフラの高度化」に合致しています。令和の時代に、当社グループの新たな柱となるビジネス領域を具体化できるよう、次期中期経営計画で本腰を入れて取り組んでまいります。
これと並行して、限りある経営資源を有効活用するうえで、現有事業の棚卸も必要となります。[SG-2023]の期間中、主要製品の現在のポジションと将来性について、取締役会で共有・議論しました。今後は、グローバル市場を見据えた各事業・製品の将来価値を見定め、それに基づく事業ポートフォリオの組み替えも検討します。

社会から常に必要とされる企業グループを目指して

当社グループが統合報告書の初版を発行して1年経ちました。初版発行にあたり、日々の経営サイクルが価値創造プロセスで描いたとおりに回っていない部分に気付かされたり、目標に対する個々の取り組みの連携について見直しが必要と思う箇所があったりと、反省点は多々ありましたが、この1年の間に、価値創造プロセスに経営の主要なコンテンツを織り込み、これに基づいて実践することが、ステークホルダーの皆様に当社グループの持続的な成長の確からしさについてご理解いただく際の軸になると実感しています。 
戦前から続く100年企業は日本国内に多く存在しますが、社会インフラを支えるユニークな事業を、長年にわたって複数の分野で継続している企業は決して多くありません。そこに、当社グループの存在価値があると考えます。
現役世代の私たちは、100年超の歴史を振り返り、これからもお客様との関係を大切にし、技術力を高める姿勢を持ち続け、社会と暮らしをより安全、便利、スムーズに変えていく企業グループでありたいと思います。
ステークホルダーの皆様におかれましては、これからも当社グループの諸活動に関心をお持ちいただきますとともに、ご指導ご支援を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。